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経営者支援 ITコーディネート業務効率化システム構築

  • 執筆者の写真清水 尚志

第六章 マネジメントの技能①

27 意思決定


意思決定の力点をどこに置くか


日本の意思決定の力点は、合意によって行われているという所にある。


欧米では、意思決定の力点は、問題に対する答えに置く。ところが日本は、意思決定で重要な事は

問題を明らかにすることである。そもそも意思決定が必要か、何についての意思決定かを明らかにすることが重要であるとする。この段階でのコンセンサスの形成に努力を惜しまない。この段階にこそ意思決定の核心があるとする。


欧米での意思決定そのものの答えは、問題の明確化の後にあるものであると考える。


日本では、契約の必要性を検討する段階で、関係者全員を巻き込んで、必要性を検討し、必要性が認められた後に、交渉が始まる。


欧米で、決定と呼ぶ段階に達したとき、日本ではすでに行動の段階にある。日本では、その段階で意思決定の責任を「しかるべき人」に任せてしまう。そして、誰が「しかるべき人」であるかを決めるのは、トップマネジメントである。

誰に任せるかにより、問題の答えも決まる。コンセンサス形成の過程で、誰がどのような考えを持っているか明らかになっているからである。


このような日本流の意思決定のエッセンスは五つある。

①何についての意思決定か、を決めることに重点を置く。

②反対意見を出やすくする。

③当然の解決策よりも複数の解決策を問題にする。

④如何なる地位の、誰が決定すべきかを問題にする。

⑤決定後の関係者への売り込みを不要とする。(意思決定のプロセスの中に実施の方策を組み込む)


日本流の意思決定は独特であり、どこでも使える訳ではないが、その基本は、日本以外でも十分に通用するどころか、効果的な意思決定の基本である。


問題を明確にする


何についての意思決定かを明らかにするには、問題に対する見解からスタートしなければならない。問題に対する答えは、人によって異なるが、その原因は、何についての意思決定かの認識の相違から生まれる。

どのような認識の仕方があるのか、を明らかにすることが、効果的な意思決定の第一歩となる。


意思決定は見解からスタートしなければならない。異なる見解を奨励しなければならない。同時に見解を出すものに対して、妥当性について徹底的に考える事を求めなければならない


意見の対立を促す


マネジメントの行う意思決定は、全会一致ではない。対立する見解が衝突し、異なる見解が対話し、いくつかの判断から選択が成されて初めて意思決定できる。

よって、意思決定における第一の原則は、意見の対立を見ない時には決定を行ってはならないことである。


意見の対立を促す理由は、

①不完全であったり、間違っている意見によって騙されることを防げる。

②代案を手にできる

③自分自身や他の人の想像力を引き出せる


意見の相違を尊重する


ある案だけが正しくて、その他の案全てが間違っていると考えてはいけない。なぜ、他の者は意見が違うかを明らかにすることから始めなければならない。

明らかに間違った結論に達している者がいても、何か違う現実を見、違う問題に対して関心があるからだと考えるべきである。


行動すべきか否か


常に「意思決定が必要か」を検討しなければならない。何もしないことを決定するのも、一つの決定である。

決定見送り自体が状態を悪化させる場合や、大切な機会を失う場合は行動しなければならない。行動することで初めて変革も可能になる。

逆に「何もしなくても何とかなる」場合は、多少、頭痛の種であっても、何もしない方が良い。

しかし、多くの場合は、その中間である。こんな時は、行動したときのコストと、しなかった時のコストを比較し判断するしかないが、指針はある。


①行動により得られるものが、コストを上回る場合は行動する

②行動するか、しないか、二者択一とする。二股や妥協は行わない


意思決定の実行


ここまでくると、誰もが効果的な意思決定を行う事が出来ると考えられるが、まだ一つ重要な段階がある。

それは、決定を実行する上で行動を起こすべき人、又は、決定の実行を妨げようとするもの全員に決定前の議論の中に責任を持たせて参画させることである。これは、民主主義ではなく、セールスマンシップである。

意思決定の中に実行の具体的な手順や責任を組み込んでおく置くことも重要である。手順や責任が仕事として割り当てられることない場合は、決定が無かったに等しい。


決定を実行に移すためには以下の問いに答えなければならない。


①この決定を知らなければならないのは誰か

②とるべき行動は何か

③それはなぜか

④行動を取るべき者が行動できるためには、その行動はどうあるべきか


特に、決定を知るべき人に知らしめることは組織として重要である。例えば生産機器の生産中止を知らない消耗品購買担当者は、不要な在庫を抱えるリスクがある。


フィードバックの仕組み


最後に、意思決定の前提になった予測を実現に照らして検証する上で必要な情報のフィードバックの仕組みを考えなければならない。

意思決定が想定通りの成果が出る事は稀であり、また、様々な想定外の事由が発生するため、常にフィードバックする仕組みが機能しないと、意思決定が陳腐化し、期待した成果を生み続ける事はできない。


従って、意思決定の前提となった予測をはっきりと書面をもって明らかにしなければならない。

次いで、決定の結果について体系的にフィードバックしなければならない。

最後に、このフィールドバックの仕組みを、決定を実行する前に構築しておかねばならない


意思決定は、機械的な仕事ではない。リスクを伴う仕事である。判断力に対する挑戦である。大事なのは、問題への答えではなく、問題についての理解である。意思決定とは知的な遊戯ではなく、効果的な行動をもたらすために、ビジョン、エネルギー、資源を総動員することである


 

28 コミュニケーション


四つの原理


コミュニケーションは、組織の種類を問わず、最大限の関心事である。私たちは、すでに四つのコミュニケーションの基本を知っている。


①コミュニケーションは知覚である

②コミュニケーションは期待である

③コミュニケーションは要求である

④コミュニケーションは情報ではない(コミュニケーションと情報は相反するが依存関係でもある)


①コミュニケーションは、知覚である


「無人の山中で木が倒れたとき、音はするか」の問いは、仏教の禅僧などの問いである。答えは「否」である。木が倒れた時は、音波として空気を振動させるが、音を感じる者がいなければ、音ではない。つまり、誰も聞かなければ「音」ではない。

この例からも言えることたが、コミュニケーションを成立させる者は、受け手である。発信する側ではない。聞く者がいなければ、コミュニケーションは成立しない。


また、受け手に理解できる言葉を用いなければ、受け手は理解できない。つまり、コミュニケーションを行うには「受け手の知覚能力の範囲内か、受け手は受け止める事ができるか」を考える必要がある。受け手が何を見て、感じているか知らなければならない。


②コミュニケーションは期待である


われわれは、期待しているものだけを知覚する。期待しているものを見、聞く。

受け手が期待しているものを知ることなく、コミュニケーションを行う事はできない。期待するものを知って初めて期待を利用する事ができる。あるいは、受け手の期待を破壊し、予測せぬことが興りつつあることを強引に認めさせるためのショックの必要を知ることができる。


③コミュニケーションは要求である。


コミュニケーションは、受け手に何かを要求する。受け手が何かになること、何かをすること、何かを信じる事を要求する

コミュニケーションは、それが、受け手の価値観、欲求、目的に合致する時に強力になる。

逆に、合致しないと、全く受け付けられないか、抵抗される。

合致しなくても、コミュニケーション力を発揮したときには、受け手の心を転向させることが出来るが、そのような場合は、人の存在に関わる問題であるよゆえに稀である。


④コミュニケーションは情報ではない。


コミュニケーションと情報は別物であるが、依存関係がある。コミュニケーションは知覚の対象であり、情報は、理論の対象である。情報は形式であって、それ自体に意味はない。むしろ、人間的な要素(感情、価値、期待、知覚)を除去するほど有効になり、信頼度が増す。


情報は、コミュニケーションを前提とする。情報は、記号であり、受け手が記号の意味を知らなければ、受け取ることすらできない。情報の送り手と受け手は、あらかじめ了解が必要である。


しかし、コミュニケーションは、必ずしも情報を必要としない。いかなる理論の裏付けがない経験の共有で、完全なコミュニケーションが成立する。コミュニケーションにとって重要なのは、知覚であって情報ではない。


上から下へ、下から上へ


われわれは、数百年の間コミュニケーションを上から下へ試みてきたが、コミュニケーションは成立しなかった。それは、「何を言いたいか」に焦点を合わせているからである。コミュニケーションを成立させるものは、発し手であると前提にしているからである。

とはいっても、はっきり書いたり、行ったりすることが無駄であるわけではないが、どのように話すかという問題よりも、何を話すかの問題を解決せねばならない。

同様に、下の者の言う事を聞いても何の問題の解決にもならない。


耳を傾ける事は、コミュニケーションの前提であるが、その際に必要なのは、上の者が、下の者の言う事を理解して初めて有効になる。ということは、下の者にコミュニケーション能力があって初めて有効になることになるが、上の者が出来ないことを、下ができる保証はない。


だから、コミュニケーションは、下から上へ向かうとの認識、受け手からスタートとする認識が重要になる。しかし、それでも、耳を傾ける事が全てではない。スタートに過ぎない。


コミュニケーションの前提となるもの


ここにおいて、目標管理こそ、コミュニケーションの前提となる。目標管理においては、部下は上司に対して「企業もしくは自らに部門に対して、いかなる貢献を行うべきであるか」を明らかにせねばならない。こうして明らかにされる部下の考えが、上司の期待通りであることは稀である。事実、目標管理は、上司と部下の知覚の仕方の違いを明らかにすることにある。


実は、同じ事実を違ったように見ている事を、互いに認識すること自体が、コミュニケーションなのである。コミュニケーションの受け手たる部下は、目標管理によって、他の方法では出来ない経験を持ち、この経験から上司を理解する。


意思決定というものの実態、優先順位の問題、成したい事と成すべき事の間の選択、そして、何よりも意思決定の責任など、部下は、上司の抱える問題に接する事ができる


部下が問題を上司と同じに見えない。また、見えるべきではない。それでも、上司の複雑なマネージメント固有の立場を垣間見ることができる。


コミュニケーションは、私からあなたへ伝達する事ではなく、我々の中の一人から、我々の中のもう一人に伝達するものである。

コミュニケーションは、単なる手段ではなく、組織の在り方そのものである。


 

これで164ページまで進みました。


次章では、管理について説明しています。

では、次章をお楽しみに。




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